Hedigan’s Live Tour ライブレポ —かつてのシティポップ先駆者が骨太ブルースマンとなって帰ってきた—

ライブレポ
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やれ四つ打ちだ、やれダンスビートだ、フェスで勝てるロックが強いのだ、そうした言説がまことしやかに、しかし確実に囁かれている音楽シーンに突如道場破りをしかけてあっという間にスターダムの頂点へ駆け上ったバンド『Suchmos』。いち早くシティポップを逆輸入⇒再解釈して流通させ、国内の主要フェスでは見たことのない速さでメインステージを陣取り、原宿の若い男性のadidasジャージ着用率を急激に上昇させた。いつだってそうだ、OASISも、andymoriも、いきなり正解を創り出す。いまいち理解しがたいブームに四苦八苦している奴らを尻目に、突然変異的な解を打ち出す。Suchmosもそうだった。雑誌やメディアは口をそろえて「彗星のように」と書いた。そして、溶けていった。

2021年、Suchmosはバンド活動を休止。同年10月にはメンバーのHSUが急死したことが報じられた。ゆっくりと終局へ向かったのではなく、突然に、致命的に終わったかのように見えた。

そんなバンドのフロントマンであるYONCEが昨年、新バンドを結成した。名はHedigan’s(ヘディガンズ)。今年にはEPをリリースし、本格的に活動を開始し、東名阪で初のツアーも開催するとのこと。しかも、ツアーファイナルである渋谷CLUB QUATTRO公演のゲストはこれまた大好きなROTH BART BARON。こりゃ行くしかないと必死の思いでチケットを取って参戦した。

会場に着いて今か今かと待っている中、満を持して「YONCEおかえり!」と言う準備をしていると、別人がきた。

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ROTH BART BARON

まずは昨年リリースされた8thアルバム『8』が素晴らしかったロットバルトバロン。活動拠点をベルリンに移して制作された本作は全編にわたって郷愁とジュブナイル感が通底していて、キラキラしているのに寂しげで、初めて聴くのに懐かしい楽曲ばかりで、ライブで聴けるのが楽しみだった。

入場SEはなくメンバーが静かなステージに上がると、早速『8』より『Kid and Lost』が奏でられる。入場してすぐの一曲目とは思えないほど軽やかなミックスボイスとファルセットに、これまでの経験の集積が垣間見えるし、ライブハウスというよりせせらぎのほとりにでもいるような錯覚に陥る。

「YONCEくんがまたこうして音楽を作ってくれているのがとても嬉しい。この曲をヘディガンズに送ります」と話して歌うのは、『極彩|IGL(S)』。歌い出しから何度もリフレインする

「君の物語を 絶やすな」

に、ぐっとこないわけがないんだよなぁ!!

2022年リリースの7thアルバム『HOWL』に収録されているキラーチューン『赤と青』のサビでは、文字通り赤と青のライトが交互に明滅し、思わずうっとりしてしまう。細かい演出までとことん美しすぎる。最後は、やはり最新アルバムより『Closer』。リズミカルなビートとハンドクラップに包まれていく姿は文字通り大団円だった。

祝祭的でありながら内省的でもある楽曲たちひとつひとつを噛み締めるような素晴らしいライブだった。アリーナやホールでバチバチなVJとともに演奏される姿も見てみたいと切に思ったし、このカオスな現代にこそ必要な、祈りのような音楽たちだった。

セットリスト
Kid and Lost
Boy
干の春
けもののなまえ
ウォーデンクリフのささやき
極彩|IGL(S)
赤と青
Closer

Hedigan’s

12弦ギターを構えたYONCEが印象的な『LOVE(XL)』で幕を開けるHedigan’sは、音源の時点でわかっていはいたけれども、この間までバチバチのシティポップをやっていたバンドのボーカリストとは似ても似つかない様相を呈していた。ややフェミニンにも映るミディアムヘアを靡かせて、フォーキーに歌う姿がとてもかっこいい。

二曲目には1st EP収録の『サルスベリ』が披露され、怒涛の新曲たちが立て続けに繰り出される。硬質的でオールドなロックンロール曲もあり、次のリリースが早くも楽しみになった。また、随所で魅せるハンドマイクの身のこなしにSuchmos時のキャリアが透けており、カリスマみを隠すのは無理なんだなと知る。

新曲ゾーンのあとは、すでに各所で話題になっていた『説教くさいおっさんのルンバ』。待ってました!音源とは異なりかなりサイケデリックかつ身体的なアレンジで、イントロから全く違う曲に聴こえる。「おいお前ェェ!リモコーンとってくれ〜(ファルセット)」を聴けて、これだけでチケ代回収だなと思った。最高すぎ。

Wonderwallのような咳払いからのDon’t Look Back in Angerのようなイントロで始まるでおなじみ『論理はロンリー』でライブはクライマックスへ。ここは本当に素晴らしかった。フロント四人のコーラスがエモーショナルで美しいし、どこか遠くを静かに見つめるようなYONCEのまなざしが、”すべてを許している”ように感じられた。

初ツアーにしてもうそのポテンシャルを隠し切れないHedigan’sの初陣はあまりに鮮やかで強かで、それでいてずっと僕たちのそばにいた。

セットリスト
LOVE(XL)
サルスベリ
新曲
新曲
新曲
説教くさいおっさんのルンバ
敗北の作法
論理はロンリー

これからが楽しみすぎる

あのYONCEということを抜きにしても、才あふれるすごいバンドが出てきたなと思わされるライブだった。が、僕含めかつてのYONCEを知っている人からすると、別人すぎて驚いただろうと思う。

思えばSuchmosの由来もルイ・アームストロングの愛称「サッチモ」からだし、そもそも学生時代のYONCEはオールドロックに影響を受けて音楽を志したらしいことを考えると、シティポップで音楽シーンをジャックしていたのが異質で、むしろHedigan’sの方がオリジンに近いのかもしれない。

いずれにしても、YONCEがこうして表舞台に帰ってきたのはとても喜ばしく、肩の力を抜いて音楽を楽しんでいる姿が見れてとても嬉しかったな。ライブでも音楽性の強度が詳らかに証明されていたし、いちファンとしてこれからが楽しみだと思った。

ツアーポスター。かっこいい!
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