恋愛ソングが永遠に生み出されるように、結局ポップミュージックというのはどこまでいっても人間が作る人間についての話に収束していくんですよ。なぜなら売れるから。今週のヒットチャートを見てみてくださいよ。ハイパースペースへ突入する曲とか、ウパニシャッド哲学の曲とかないでしょ。
ただ、やっぱり恋愛の曲ばかり聴いているとしんどくなるというか、別に恋愛がすべてじゃねえよと持ち前の逆張り精神が芽を出すわけです。いや、逆張りとか抜きにしてもバラードばかり聴いていると胃がもたれませんかっていう。学校、部活、バイト先、職場、家庭、予備校、トー横、インターネット……すべてのコミュニティに他者が存在するからこそ人間関係が生じるわけだけれども、時にはトラブルだって発生するし、そうした喧騒から距離を置くような超然的なクリエイティブに触れたい瞬間だって何度もある。
高校時代からずっと好きなバンドがいるんですよ。『avengers in sci-fi(アヴェンジャーズ イン サイファイ)』というバンド。それこそ、彼らが歌うのは”宇宙”。そこに描かれているのは猥雑な人間関係や恋愛などではなく、惑星間の気が遠くなる航行距離だとか、ワープゲートだとか、宇宙船での冷凍睡眠だとか、ただただハードSF小説に出てくるものばかり。聴くプラネタリウム。音の出るハヤカワ文庫だ。地に足は全くついていないけれど、遠い星に思いを馳せる尊さがそこにある。
3ピース!?
ピコついた近未来的なシンセとエフェクトかけまくったギターに乗っかるエモーショナルなメロディ。よくよく聴くとめちゃくちゃにグッドメロディだ。歌詞はよくわからないようでなんとなくわかるような絶妙さ。SFチックなワードに隠された仄かな人間さが良い。3ピースとは思えないほどの音数の多さ。音圧が分厚いというより、単純に音が多い。今でいうガチャポップの文脈とも接合できそうだけど、12年のリリースですよ!?本当に時代を先取りしすぎたバンドだと思う。ちなみにこの曲はサカナクションの草刈もカバーしてます(!)。

こちらは『Tokyo Techtonix』のスタジオセッション。イントロだけでも見てみてほしいんだけど、ギターってこんな音鳴れるんすか?
生活感のなさが産む良さ
宇宙から地球に再び降り立ったようなコンセプトの5thアルバム『Unknown Tokyo Blues』のラストを飾る『And Beyond The Infinite』。和訳すると「無限の向こう」ですよ。壮大すぎる。タトゥイーン出身か?
夕陽の空まるで血のよう /「全てがきっと変わってしまう」と/あなたは世界終わるかのよう/夕陽は何も奪いはしないよ
『And Beyond The Infinite』歌詞より
学生時代にもうどうしようもなく鬱屈としていた日々に、河川敷に座ってこのアルバムを聴いていたのを思い出す。「夕方に起きて外は雨 何もない冷蔵庫 今日も何もなかったな 明日もバイト」みたいな曲が放つリアリティは確かに強固だが、ボーっと星を眺めるだけの悠久の時間の方が遥かに救いになっていた気がする。この”ただただそこにあるだけ”みを言語化するのはもう諦めた。理屈なんてないんだよ。この音階で、この歌詞を歌われるだけでどうしようもなく泣きそうになってしまう。
どこにもないところを歌っているのに、なぜかモラトリアムでの憧憬や情緒が刺激されてしまう。元々SFが好きだというのもあるけど、こうした曲の持つ超然性が響く人も確かにいると思う。
最後はライブ定番曲にして重厚なキラーチューン『Dune』を。いやDuneて。新譜楽しみにしてます。
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