日常に寄り添う音楽とはどうあるべきか。30代の会社員となった今、時折考える。
yubioriの新譜『yubiori2』を聴くと、その答えがわかった気がした。
Introduction
横浜を拠点に活動する5人組バンド、yubiori。7月2日にリリースされた2ndフルアルバム『yubiori2』は、一度通しで聴くだけで、「あっ、これ一生好きなやつだ」と確信できる稀有なアルバムだ。あまりに刺さりすぎたが故にリリースから一か月半経ってレビュー記事を書くというラグに、我ながらリアルさを感じる。というわけで、改めて久々のディスクレビューを行いたいと思います。
生活者として
『ギター』『映画の中に』『つづく』などの必殺チューンが収録された前作『yubiori』もだったが、今作はそれ以上に”生活に根差した音楽作品”という印象が強い。メンバーそれぞれが社会人として生計を立てる傍らで音楽活動をしているという点も大きいのだろうが、歌詞に刻まれる実直さが音となって出力されている。
また、本作はASIAN KUNG-FU GENERATIONの後藤正文がプロデュースしている。本人らもルーツの一つだと公言するミュージシャンにダメもとで依頼したところ、快諾してもらったとのこと。デモ音源から聴いてもらっていろいろとアドバイスをもらったらしいが、確かに1stと比べて特にドラムの音が粒立っている気がする。キャリアを後に振り返ったとき、このアルバムが彼らにとって重要なセーブポイントとなるのは間違いないだろう。
ピックアップレビュー
ここではアルバムの代表格となる楽曲や、特にお気に入りの楽曲について簡単にレビューしてみたい。
Maxとき
オープニングを飾る、これぞyubioriの真骨頂ともいえる新たな代表曲。文字通り「魂を売って」金にする摩耗と、遠くの地でも生活があって、自分たちの音楽が鳴らされているという日常が、表裏一体となって存在する。そんな日々の繋ぎ目を、緊張と弛緩を繰り返すメロディに乗せて、最後は東京へと帰ってゆく。
「Maxとき」とは、上越新幹線で運行されていた東京・新潟間を走行する車両の愛称で、2021年10月1日に定期運行を終了している。ラストランはまだまだ先だろうけど、自分も誰かの思いを乗せて今を生きている。
いつか
シングルカットされ先行配信されていた曲。彼らの楽曲の中でもかなりBPMが速く疾走感のある曲だが、3分強の楽曲にしてイントロは1分あり、サビはないのにポエトリーパートがあるという中々に尖った構成をしている。
朝起きて 働いて 家路を急ぐ
『いつか』歌詞より
たまに君の歌を口ずさんで
この歌詞に何度グッときたことか。
終わらない
こちらも先行配信されていた楽曲。レゲエ調ともいえるゆったりしたテンポで歌われるのは、目の前で積み重なる業務というミクロ的視点と、この日々がいつまで続くのだろうかというマクロ的俯瞰。ラスサビ前の過密なリリックの切実さよ。
3万時間ひかり続けるLED
『終わらない』歌詞より
99.99%の稼働率で年間52分間だけ止まるサーバー
俺は故郷の山を切り開いてまで
音の速さで運ばれたくなんかない
二等寝台
君に新しい名前をあげるよ
『二等寝台』歌詞より
体は無くなってそれだけ残ればいい
しっとりとした歌い出しで始まるのも束の間、とことんギアが上がり気付けば涙目で絶唱してしまうアホアホ製造キラーチューン。歌い出しでフックとなるフレーズがラストにも使われ、爽快感がたまらない。拳を突き上げながらシンガロングしたい。
rundown
アルバムラストを飾る重厚な曲。ライブでは既に披露されていて、今作で初めて収録となった。ラストのポエトリーパートでは歌詞に書かれていない絶叫パートもあるが、書かれていないからこその油断のなさみたいなものもある。名曲すぎ。
総括
American FootballなどのUSマスロックやアンビエント、はたまた日本のマスロックバンドなどと近接したり、エモ・ハードコア・シューゲイズを縦断したりと非常にごった煮な音楽性をしつつも、リリックやアティチュードでは”日本を生きる生活者”として屹立している。先述した通り、この実直さがバンドとして愛される所以だと思う。
新たにトランペットの大野莉奈が加入したことも、バンドとして大きな追い風になっていることが伺える。
以前、当サイトで「yubioriを好きじゃない人は知らないだけなんじゃないか」という旨の記事を書いたが、今作でその思いはより強固なものとなった。自分で書いておきながらただのエゴとしか思えなかったものが、自分自身の手でさらに補強してしまうという、奇妙な再生産すらしてしまう名盤だと思った。
このバンドが刺さる人は間違いなくまだまだいる。「もう彼らのことは知っているよ」「もうyubioriのこと好きだよ」という人以外にも広く届いてほしいと、強く願っている。




コメント