2025年9月10日、kurayamisakaが1stフルアルバム『kurayamisaka yori ai wo komete』をリリースした。

継承と気概
前作『kimi wo omotte iru」は架空の女子高生二人の別れについて歌われたコンセプトアルバムだったが、今作は“いろんな誰かの人生の一瞬を集めたアルバム”という、さらに群像的な作品に仕上がったとのこと。
というかそもそもなのだけども、ギターのうんにょん(清水正太郎)氏による全曲解説記事を読めば一切の問題はございません。

いろんな音楽を聴き、影響を受け、新たな音楽を創る。そうして出来上がった音楽が、さらに後の世代に伝わっていく……。このアルバムにはそうしたクリエイターシップド真ん中ともいえる気概を感じるが、それこそが音楽の持つ意義そのものだと思う。
ピックアップレビュー
metro
ライブでは度々披露されていた楽曲。ジャキついたトリプルギターが鳴る疾走感溢れるナンバーで、間奏のセッションパートはさながらアジカンの『リライト』を彷彿させる。レコーディングのとき帯域の住み分け大変そうだな……。
sunday driver
こちらもライブでは既に披露されていた楽曲で、前曲『metro』から地続きのドラムから始まる。こういうのオタクはみんな好きですからねェ!もっとやれ!!
ハイウェイ
先行シングルとしてbandcampにて配信されていた曲。売り上げが能登地震の義援金に充てられるとのことだったので、筆者も購入した。『ハイウェイ』に外れ曲なし。
jitensha
こちらも先行配信されていたシングル曲。学校のチャイムのメロディを歪ませたギターでなぞるという、とにかくベタなイントロで歌われるは、夏の焦燥。喪失。うんざりするほど白い雲。下り坂。言えなかったセリフ。君がいた日々。もういない今。途方もない未来。汗ばむ襟足。溶けたアイス。眩い蜃気楼。胸のざわめき。涙腺。苦い痛み。一瞬の全能感。それと虚脱感。遠くを見据える目線。野良猫。対向車。草いきれ。光環。すり傷。もう入れないプール。絆創膏。閉め切られた砂浜。滴る夜露。水色のシャツ。白いワンピース。あの日の残像。いつになっても思い出してしまうであろう、あの日の残像。
あなたが生まれた日に
2ビートで駆け抜ける爆速ナンバーかと思えば、転調しこれでもかと歪み極まるギターが鳴り響いたかと思えば、世界の終焉かと聞きまごうほど全てを覆いつくす大轟音のアウトロ、そして、囁くような「くらやみざかより 愛を込めて」でエンディング。『2001年 宇宙の旅』のラストかと思った。初めて聴いたときは外を歩いていたのだけど、これを聴いて思わず立ち止まってしまった。とんでもない曲。
ベタをやりきる勇気
総括すると、とても”ベタなアルバム”だと思った。「こういうのでいいんだよ」じゃなくて「こういうの『が』いいんだよ」と、大声で言い放ちたくなるアルバム。
「シューゲイザーか否か」といった議論がネット上で紛糾していた通り、kurayamisakaは轟音でオルタナティブなサウンドをしているが、メロディや歌詞、あるいはアティチュードにいたるまで、実はかなり”ベタ”なバンドだ。轟音が鳴り響きながらもちゃんとギターロックだしポップネスも忘れていない。
加えて、聴けば一発で沼に引きずり込む強靭なメロディセンスは、他のインディーバンドと比べても頭一つも二つも抜けている。ベタでありながらそもそものセンスが神がかっているのだ。今作では特に爆発している。
そして、今の時代はこのベタさをやりきるのが何周も回って一番大事な気がしている。この一枚がここまで話題になって多くの人がその魅力を語っている現状こそが、それを雄弁に語っているといえる。
1stアルバムというものは得てして拙かったり、粗削りだったりするものだ。このアルバムにも「バンドやったるねん!」という、それこそベタな初期衝動的リビドーが随所に見え隠れしているが、やっぱり完成度の高さは隠しきれておらず、既に金字塔のオーラを放ってしまっている。これから初めて聴くであろう若い世代の人たちがこのアルバムに度肝を抜かれ、新たな音楽を始めることもあるだろう。まだ見ぬその継承に思いを馳せると、どうしたってワクワクしてしまう。
そういう思いを抱きながら、12曲46分を聴き終え、満を持してこの言葉を贈りたい。
kurayamisakaへ 愛を込めて




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