Suchmosの5年以上ぶりのワンマンライブ「The Blow Your Mind 2025」に行ってきた。
Suchmosにとって、実に5年8ヶ月ぶりの有観客ライブである。2021年に活動休止した彼らの新たな門出となる日には、20万人以上のチケット応募があったという。抽選が外れに外れまくったが、奇跡的に注釈付き指定席のチケットをゲットできたので行ってきた。結論から言えば、今年ベストライブ級だったと思う。
セットリスト
早速だがセットリストはこちら。
帰ってきたぞ
開演時間を少し過ぎ入場SEが流れる。定番の『S.G.S』ではなく、荘厳で静かに燃え上がるようなSEでメンバーが入場。5年以上ぶりに目の前で演奏される一曲目は何なのか17,000人が静かに見守る中、アレンジされまくったがゆえに聞き覚えのないイントロが奏でられる。そして、歌い出しの歌詞で『Pacific』だとわかると拍手が沸き起こる。帰ってきたぞ、Suchmosが。
山本連、ありがとう……
その後の『DUMBO』などの数曲は、音源よりかなりBPMが速いように感じられたが(ドラムがやや走っていたのかも)、これほどのブランクがあってもグルーヴ感は健在だった。特にサポートベーシストの山本連(SNS上ではKing Gnu新井やBREIMEN高木、マーティ・ホロベックなども予想に上がっていた)のプレイングも素晴らしい。ルックスや佇まいからもう”Suchmosそのもの”だった。
真髄
Suchmosって「ドライブに最適!」とか「都会的でチルっちゃう!?」みたいなパブリックイメージに本人らも翻弄されていたように思うのだけど(自動車のCMタイアップによるものが大きいのだろうか)、ライブを観る度に「そんなわけねえよな」と思っていて。確かにメンバーはクラスの一軍男子みたいなルックスだし、甘い歌声に煌びやかなサウンドの楽曲も多いが、生演奏はかなりギターが前面に出ているし、ベースは丹田に響く重厚な音だし、ハンドマイクのYONCEはそこかしこに動き踊り回るアグレッシブさがある。シティポップな手ざわりをしていながら、核の部分はかなりソウルでありロックなんだよ。
今回のライブも、数年ぶりの復活いうことで多くの人が待ち詫びていたというのを抜きにしても、「こんなにシンガロングしてたっけ!?」と驚くほど一つ一つがアンセム化していた。「なんかオシャレな曲聴きたいな~」と抜かしているとみぞおちをえぐってくるようなパンチ力があるバンドだと、つくづく思う。
深呼吸
アンコール後のMCでは、”あの件”について触れるYONCE。
「隼太いたじゃん。”HSU”。アイツ、死んだじゃん?」
「ここに来ている人たちも、大切な人を亡くしたり、逆に新しい命を育んでいる人もいると思う。俺もここに来るまでアリを踏み殺しているだろうし、車のドアに巣を張ったクモに触らないように避けたりしてるんだよね。
ミュージシャンがこんなことを語ると冷める人もいるかもしれないけど、世界では人を殺したり殺されたりということが起きているし、失った命というものは絶対に戻ってこない。ちょっと、一旦目を閉じて、深呼吸してみませんか」
と問いかける。結果的にそれは、若くして喪われた彼らの唯一にして無二の盟友へ向けた短いようで長いような黙祷となり、横浜アリーナをパンパンに埋め尽くす17,000人が静かに想いを馳せる時間となった。
そこで演奏される『Stand By Mirror』(コロナ禍での配信ライブで披露されたらしい新曲)は「そのクソバカな友達に捧げます」と言って奏でられた。
かつてのシーン最前線のバンド復活の裏には、決して真っ直ぐではない道のりがあった。それに触れずにライブを行うことも可能ではあったはずだが、やはりそれに触れずに新たな一歩を進めるのは彼らにとっては筋違いだったのだろう。
自分のために生きる
つづく『Life Easy』で歌われるのは「自分のために生きよう」という、あまりにシンプルでストレートなメッセージ。10年前の曲にして、むしろ現代に通ずるものを感じるナンバーをもってライブは終演。踊って、笑って、泣いて、前を向くという、生きていくことの根本を思い出させるような素敵なライブだった。そして、歴史を作ったバンドの復活劇もまた、歴史に刻まれるものとなった。
その一方で、やはり彼らにとって華々しい復活劇ではなかった。この5年8ヶ月の間に、思い出したくもない出来事がたくさんあったのだろうと思うし、こうしてまた目の前で音楽をやっている姿を見届けられることそのものが奇跡であるともいえる。
そして、それは僕たちも同じなのだ。苦心の末新たなスタートを切ろうとしているSuchmosと、「この数年でいろいろあったよなぁ」という日々を営みながら奇しくも交わることが出来ている。その重なりにまなざしを向けつつ、自分の人生を生きようと思えた素晴らしいライブだったということを、ここに残しておきたい。
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