ので、あきらめて鑑賞してください。それではまた!
献身
で終わりたくなるほど、もう「観てくださいね」で終了というか「”賛”しか有り得んやろがい」くらいしか言えない出色の傑作映画なんですよ。
献身についての映画だと思った。やっぱり僕は人間同士の対話を諦めない作品が本当に好きだ。人には人の地獄があることを示す作品は最近特によく見かけるけど、その描き方が白眉でしかない。
あらすじ
PMS(月経前症候群)のせいで月に1度イライラを抑えられなくなる藤沢さんは、会社の同僚・山添くんのある行動がきっかけで怒りを爆発させてしまう。転職してきたばかりなのにやる気がなさそうに見える山添くんだったが、そんな彼もまた、パニック障害を抱え生きがいも気力も失っていた。職場の人たちの理解に支えられながら過ごす中で、藤沢さんと山添くんの間には、恋人でも友達でもない同志のような特別な感情が芽生えはじめる。やがて2人は、自分の症状は改善されなくても相手を助けることはできるのではないかと考えるようになる。
映画『夜明けのすべて』公式サイトより
PMSに苦しむ藤沢を上白石萌音が、パニック障害を患っている山添を松村北斗がそれぞれ演じる。もうね、この二人がヤバい。演技が巧すぎる。”普通にいる人”だった。歩き方から目線の動き、会話における言いあぐねた間などが完璧。映画の奇跡が起きている。
好きなところ
好きなシーンを挙げろと言われれば全部といきたいところなんだけど、いくつか印象に残ったシーンを挙げてみる。
光
この映画、常に光の演出が美しいんですよ。事務所に差し込む午後の陽射しや、自転車で上る坂の先が暗闇になっているコントラストなどが、フィルムの質感も相まってとても綺麗だった。
お互いの病気を茶化し合う
自分でもアンコントローラブルな病を抱えていて、他者からの無理解に晒された生活を送ってきているからか、打ち解け始めた二人が「パニック障害のせいにできるじゃんね(笑)」「PMSだからって好き放題言っていいわけじゃないっすよ(笑)」などという、傍から見たら最恐にセンシティブな物言いをし合う。その言い合いが、二人にしか許されない聖域でありつつ、どこかすぐそばにいるような親近感を感じさせる。
社長の弟が遺した手紙
二人が働く栗田科学の社長の弟が書き遺した、星にまつわる手記が見つかるシーンもとても良い。もういない者がかつて遺した文字が記録となり、今ここにいる藤沢と山添に届く。過去の光が現在に届くという、まさにことばが星そのものだと気づかされる。ここで何度目かの落涙である。
映画についての映画
終盤で、暗闇でプラネタリウムを観るお客さんたちが、同じく暗闇で映画を観る我々とオーバーラップする。つまり、”映画についての映画”というある種の自己言及性がある。プラネタリウムに心を震わせる人々と僕らが、スクリーンを隔てて地続きに感じられる瞬間だった。
エンドロール
昼休みにのんびりキャッチボールをする社員たち。そこで、自転車に乗りながら「コンビニ行きますけど何か要ります?」と山添くんが皆に尋ねる。
――静かに泣きましたよ。思い出している今もアカン。エンドロール終了間近に取り損ねたボールがこちらに転がってくるところまで、あまりに完璧だった。
「愛は負けても、親切は勝つ」
「愛は負けても、親切は勝つ」ということばがある。アメリカの作家カート・ヴォネガットのファンが、「あなたの作品の核心がわかった」として、本人に宛てた手紙に書いた一節だそう。
解釈の仕方は無限大だけど、とてもいいことばだと思う。愛は時に行き過ぎたり、”歪んだ愛”と形容されるような執着心へと変貌を遂げることも多い。一方で、親切とはそこまで大層なものではなく、今隣にいる人にやさしくあればいいという、ある意味での単純さがあり、それに救われることも多い。
「人のために生きる」のは仰々しい。どこまで行っても、自分は自分の人生を生きているのだから。それでも、目の前で苦しむ人に手を差し伸べようとしたり、見守ることはできる。そういう、当たり前で尊いまなざしを感じることばが、この映画を観ているときにずっと脳内に漂っていた。
今の年齢で観れたからこそ幸運だったようにも思う。これが映画を観る理由のすべてと思えるほど、とても素晴らしい作品だった。

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