前評判を蹴散らした傑作『THE FIRST SLAM DUNK』と、消費者のあり方

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学校の先生が「スラムダンクの作者と知り合いなんだよ」と言っていた。当時の俺は嘘松だフェイクニュースだと揶揄していたが、その伏線が15年後の今、回収されることに―――

観てきました

スラムダンクの完全新作映画『THE FIRST SLAM DUNK』がいよいよ公開された。二回観た。こう見えて僕は生まれて初めて読んだ漫画がスラムダンクだったし、父親と行った床屋で三井寿と同じ髪型にしてくれと頼んで大失敗したこともあるほどのスラダンファンである。

結論から言うと、めっちゃくちゃ素晴らしかったです。

旧アニメ版から声優が変更され、そしてそのアナウンスが「遅い」とSNS上で炎上したり、上映直前まであらすじすら公開されない秘密主義プロモーションだったり、何かと注目されがちだった本作(個人的には、座組が発表された時点で「旧アニメ版と同じものが見れる!」と勘違いするのは完全に消費者側のリテラシーの問題だと思うが…)は、蓋を開けてみれば原作者監修による徹底したリアリティの追求により、素晴らしいクオリティのものになっていた。モーションキャプチャーを利用したCGに井上雄彦氏特有の線のレイヤーが追加されたキャラクターが生き生きと動き、まるで目の前で試合が展開されているかのように描写され、一瞬たりとも目が離せなかった。それも、誰もが脳内に描いたあの「山王戦」をだ。

主題歌・挿入歌に抜擢されたのはThe Birthday10-FEETという邦ロック界でも屈指のライブバンド。特に井上氏はThe Birthdayのファンであるようなので、こちらもご本人のセレクトだと思われる。

もうこの時点で期待大だったんだけど、湘北と山王メンバーが線画から浮かび上がってベース・ドラム・ギター・チバのヴォーカルが重なっていくOPは劇場の音響も相まって鳥肌モノだったし、リョータの名台詞「ドリブルこそチビの生きる道なんだよ…!」で爆音でかかる10-FEETには思わず拳を握りしめるレベルだった。

好きポイント

ストーリーの解説は既にいろんな人が書いてるので、好きポイントだけ列挙してみる。

◆本作の主人公的立ち位置を占める宮城リョータには、明確に”沖縄出身”という設定が付与された。声優も沖縄出身の仲村宗悟氏が務めるという点に、井上氏の深い想いが込められている気がした。同じ沖縄出身として関係ないのに誇らしくなってしまった。

◆↑と関連して、リョータに沖縄出身という設定が付与されたことで、沖縄バスケ特有の小柄でスピーディーなプレイスタイルや原作で唐突に出てくる「〜やぁ!」という沖縄弁に説得力が生まれた。そもそも「宮城」だし。

◆試合でリョータが左腕につけているリストバンドがなぜ”2つ”なのか、その意味が今作で初めて明かされるの、凄…。

◆リョータとソータ、他のうちなんちゅとのやりとり。よくあるエセ沖縄弁ではなく、後ろの方にアクセントを置く感じや「〜やっし!」「〜ど!」をしっかり再現しようとしていて懐かしくなった。沖縄出身の声優を何人か起用してたみたいだし演技指導頑張ってたんだろうなあ。

◆ミニバスの試合で最初は調子がいいリョータが、「兄のソータが海難事故で亡くなっている事実」が明かされたシーンから調子を崩し、それとリンクするように母と妹も応援席の後ろ側にシフトしている描写。”妹が席を外したため相手チームの応援客が座ってしまい、立ち見せざるを得なくなった”という自然なシチュエーションを、描写しすぎずに表現しているのに唸った。

◆桜木花道のバスケ選手としての良くも悪くも異端感。並外れたフィジカルエリートであるものの、バスケに関しては完全にシロートで、試合序盤の何もやってなさと中盤の奇行のコントラストが、映像になるとより”やべー奴”として際立っているのが好き。

◆ラストは原作では全く描かれない”山王戦の後”が描かれていて、これが中々衝撃だったんだけど、日本のバスケ界の未来を信じていた井上氏だからこそのラストなんだろうなと。最後まで席を立たずに観てください。

消費者側のリテラシー

これはずっと言い続けているんだけど、声優変更云々の炎上が本当にくだらないというか、一時期の「スラムダンクの話をしようものなら『あの炎上してるやつね』と言われる状況」がマジでだるかった。

予告映像や制作陣のインタビューや主題歌アーティストの抜擢などどれを見ても「炎上商法」だと捉えるのはどう考えても無理があるし、そもそも旧アニメからキャスト一新することは予告の時点でわかったでしょうよ…と思う。

正直なところ、旧アニメ版は作画・演出においてクオリティが高いとは言えないものだった(良くも悪くもあの時代のアニメといった感じ)し、キャストを刷新することについて僕はかなり好意的に捉えていた。だから攻撃的な信者(それは果たして作品のファンと言えるのだろうか)ともいえる一部の層には恐怖を感じたし、声優の変更という言わば”制作における一プロセス”のみが、”≒リスペクトの欠如”とこじつけられ、過剰に前景化され拡散されていく様子がほんとにしょうもないな…と思って見ていた。というか原作者監修なのにリスペクトの欠如って意味わからん。もうちょっとさ、落ち着こうよほんと。

傑作です

蓋を開けてみると、そうしたアレコレを吹き飛ばすような傑作となっており、原作では他のキャラと比べてさほど深掘りされていなかった 宮城リョータ にあえてフォーカスすることで、より原作に遡及的な深みが生み出されたように思う。

そして、沖縄での情景描写やセリフへのこだわりを見ると、あの時の先生の言葉も嘘じゃなかったのかもしれない、と思った。

”誰も見たことのない、あのスラムダンクだった”という一見矛盾した感想を抱くこと間違いなしなので、原作ファンはもとより、この際原作未読の方も観に行ってほしいと思う。「映像表現として新機軸への挑戦」と「セールスを稼ぐ商業性の両立」という点では今年一かもしれない。バスケ作品として、アニメとして、映画として最高です。是非に。

※2023/1/27 追記 三回目観ました。客席に魚住らしきシルエットが見えて笑っちゃった。

この記事を書いた人
大トロゼウス

社会人。音楽(特に邦ロック)、映画、酒、ロボアニメが好き。多趣味すぎて何も究められていない。

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