地獄への道は、引き返せない──映画『SIRAT シラート』レビュー

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シラート…アラビア語で「道」、またはイスラム教の終末論における「地獄に架かる細い橋」のこと。

あらすじ

「SIRAT シラート」公式サイトより

失踪した娘を探すため、レイヴ会場へ向かう道中を描くロードムービー。音響に拘って製作されたのもあって、映画館で必ず観るべきという触れ込みが多く、またネタバレも厳禁とのことなので公開3日目で観てきた。

以下、本編のレビューです。ネタバレありなのでご注意ください!

ロードムービー……?

『シラート』本編より

序盤から中盤にかけては、「失踪した娘を探す」という動機のもとに車で目的地を進むロードムービー然としていて、雄大なランドスケープもあってシリアスながらもどこか爽やかな質感がある。道路の車線と劇伴のリズムが重なる「ケミカルブラザーズのMV」みたいな演出もあって、視覚的な爽快感もある。

が……。

不穏

スピーカーから放たれる重低音の不穏さが示す通り、中盤あたりで目を覆いたくなるほど後味の悪い展開が訪れる。しかもかなりアッサリしてるもんだから、文字通り「え?」と思考停止してしまうのだ。”映画のお約束”を華麗にぶち壊していくその展開に、かつてサカナクションの山口一郎が「音楽で『恐怖』の感情だけは表現できない」と語っていたことを思い出す。少なくともこの映画だけは例外だ。

『シラート』本編より

地獄への道

以降の展開も、かなり地獄。

旅の途中、車に搭載したスピーカーを持ち出し、どこでもない砂漠の上で簡易レイヴを開くメンバー。当初はレイヴに一切関心がなかった主人公ルイスも、なんとなく身体を動かしてみる。悲しみは癒せないが、悲しみを抱えたまま踊ることはできるから。

『シラート』本編より

さながら、「The Whoのピート・タウンゼントの名言(とされている)の『ロックンロールは悩んだまま踊らせてくれる』のウルトラスーパーハードモードみたいだな」と思って観ていると、突如メンバーが次々と爆死。二度目の「え?」。

どこでもない砂漠は、地雷原だったのである。

予期せぬこと

ここから終盤にかけては、ぜひ劇場で観てほしい。というか、言語化が難しいというか、書けば書くほど陳腐になってしまう気がするのが正直なところだ。

勧善懲悪モノが見たいとか、スッキリする映画が観たいという方には一切おすすめできないが、公正世界仮説(「人は自分の行いに応じた結果を受ける」と信じる心理的バイアス)に囚われた我々現代人に対して、「お前の思い通りにはいかないぞ」と刃を突き立てる映画であることは間違いない。「生きるって、そういうことだから」という、厳然たるメッセージを感じる。

プロモーションについて

2026年公開作の中でもトップクラスにヤバい作品なのは間違いない。が、キャッチコピーにある「予測不能×衝撃の映画体験」についてはハイプというか、そこが売りじゃないでしょとは思う。

より多くの人に観てもらうためには仕方のないこととはいえ、このコピーだと壮大な起承転結やあっと驚くどんでん返しがあると錯覚させかねないのも事実。実際には本作はいわゆる”アート映画”としての側面が強く、整合性のあるストーリーを重視する人にとっては「むむ……」となることも少なくないだろう。「問い」の方にウェイトがかかった作品なのだ。

壮絶な映画体験

とはいえ、やはり強烈な爪痕を残す映画だった。観て1週間ほど経っても、この映画のことが脳内をグルグルと駆け巡っている。

”善意で舗装されている”と噂の地獄への道の本質的な怖さは、「突き進むこと」よりも「引き返せないこと」にあるのではないか。皆さんもぜひ映画館で観て、音と映像による壮絶な腹パンを味わってください。

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