復活してよかったね、ではない。―山口一郎のドキュメンタリーを観て―

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先日、ある番組が僕のTLを席巻していた。NHKによる、サカナクション山口一郎氏についてのドキュメンタリーである。

山口一郎 “うつ”と生きる〜サカナクション 復活への日々〜 - NHKスペシャル
サカナクションの山口一郎が、うつ病に苦しんだ2年を赤裸々に語る。現在回復には向かいつつあるが、症状は一進一退を繰り返している。しかし、この春サカナクションを率い、2年ぶりの全国ツアーに挑んだ。「うつ病を抱えている自分だからこそ、新しい音楽世...

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2022年夏から、山口の不調によりライブ活動を休止していたサカナクション。休止期間中に配信していたインスタライブ上で、うっかり「うつ病です」と口走ってしまったのを見たので、患っていること自体は知っていたが、失礼ながらここまで重い症状だとは想定していなかった。このドキュメンタリーを観るまでは。

いちミュージシャンにフォーカスするにはあまりに重く暗い内容で、観るまでかなりの覚悟が必要だったけれど、ファンとしてはやっぱり観ておくべきだなと思った。ここに感じたことを記しておきたい。

孤高ではなく孤独

作詞作曲を担当するフロントマンというと孤高な存在であるというバイアスがあるけれど、実際には”孤独である”というのが第一印象だった。スタジオでリハーサルをしているメンバーに対して、山口が「自分一人だけがサカナクションの顔になっている状況がつらい」と溢す場面がある。ずっと抱えていて誰にも伝えることのなかったであろう本音が、意図せずコップから溢れてしまったという印象のシーンで、観ているこちらとしてもかなりキツかった。ずっと闘ってきたんだろうな。

印象的なシーン

他にも印象的なシーンがいくつかある。

ペルソナ

前身バンド(『ダッチマン』かな?)のメンバーが、地元:小樽にて活動していた頃と比べ、デビューが決まり上京するときには山口の人格が変貌していたと語るシーン。7thアルバム『834.194』のリリース時にも「東京で勝つための曲が必要」としきりに話していたのは記憶に新しいし(しっかりと成果を残しているあたり実力も疑いようがないのだが)、僕も地方から上京してきた身なので、都心に出て新たな生活を始めるにあたってペルソナを用意するというのは大小あれど共感するところは大きい。彼の場合、それがあまりに重厚で堅牢だったのだろう。

重いマント

番組の終盤で、快方に向かった山口がライブ活動を再開し、先述の前身バンドのメンバーが客席から見つめているシーンが映される。そこで放たれる、

「重いマントはもう手に入れているのだから、脱いだり着たりしようね」

というセリフの、あまりのあたたかさと真摯さと切実さに涙ぐんでしまった。凄すぎる。病であろうが健康であろうが、孤独を感じたときにまず必要なのは身近な理解者だということ。その後の山口も「うつと肩を組んで生きていく」と話していて、”戻ることはできなくても変わり続けることはできる”と示す姿が、もうサカナクションそのものじゃないかと。

ミュージシャンのメンタルケア

今回の件に限らず、「日本はミュージシャンのメンタルケアが遅れている」という言説がある。その理由の一端として、2015年に公布された「ストレスチェック制度」は従業員50人以上の職場で義務となっているが、音楽事業所は従業員数が50人以下であることが多いため努力義務扱いとなってしまい、従業員もミュージシャンも対象外となっているケースがほとんどだから、というのがある。

対して、海外ではAviciiの自死をきっかけに、彼の父が「Tim Bergling Foundation」という財団を創設し、アーティストのメンタルヘルスについての啓蒙を行っているという。確かに日本ではメンタルや体調の不調により活動を休止するアーティストがたびたびニュースになるものの、その後についての議論が活発でない印象を受ける。

そんな中、2021年9月にソニー・ミュージックエンタテインメントが、アーティストやスタッフに対して、メンタルヘルスのサポートを行うプロジェクト「B-side」を発足した。

アーティストやクリエイターを心と身体の両面からサポートするプロジェクト「B-side」始動|ソニーミュージックグループ コーポレートサイト
ソニーミュージックグループのプレスリリースページです。アーティストやクリエイターを心と身体の両面からサポートするプロジェクト「B-side」始動の詳細を掲載しています。

関係者ではない以上ポジショントークでしか言えないが、これがいい流れの発端になってほしいと思う。

僕の周りでもうつに苛まれている人・いた人が何人もいるが、当事者でない僕にもその辛さはヒシヒシと伝わってきた。できることならサポートしたいとは思うものの、辛い気持ちを仲間へ吐き出してハッピーエンド!ではないわけで。

今は健康なミュージシャンたちも、まったく異なるフィールドで働く僕も、これを読んでいるあなたも、いつうつになってもおかしくない現代社会を生きている。なったら終わりではなく、いくらでも休養ができて治癒できる土壌が整ってほしいと、そうあるべきだと強く思った。綺麗事かもしれないけれど、生きづらい世の中でこそ綺麗事が必要なのだと思います。そして、何よりサカナクションが大好きなんだなと改めてわかった。観て本当によかった。

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