【ネタバレあり】悲しい作品に疲れた人へ。『プロジェクト・ヘイル・メアリー』が示す、他者と手を取り合うホープコア

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映画『プロジェクト・ヘイル・メアリー』とは

2026年に日米同時公開された映画『プロジェクト・ヘイル・メアリー』。公開から3週間で世界興収510億円超を記録している。

原作は『火星の人』(『オデッセイ』というタイトルで映画化)のアンディ・ウィアー。監督は『スパイダーマン:スパイダーバース』でおなじみフィル・ロード&クリス・ミラーという錚々たる座組で、名実ともにSF大作だ。

公式サイトより

ホープコアの時代

この作品がヒットしている要因として、
「悲しいものに飽きた説」を提唱したい。

海外のSNSを中心に広がっているムーブメントの一つに「ホープコア」というものがある。悲劇や絶望に溢れた作品に対するカウンターとしての、ポジティブなメッセージが込められたカルチャーを指すらしい。

本作もまさにホープコアの真骨頂と言っていいだろう。地球規模の危機に対して、「科学」と「友情」と「ひとつまみのユーモア」で立ち向かう。SFという一見とっつきづらいジャンルでありながら、その核はひたすらまっすぐに王道だ。

エンカウント

単身で宇宙へ飛び立った主人公:グレースが、地球の危機を救うために様々なミッションに挑むというのが本作のストーリー。グレースは過去に生物学の博士号を取得したが、いろいろあって現在は中学校に科学の教師として勤務しており、持ち前の知識とユーモアセンスで生徒たちからも人気だ。

しかし、おそらくだが友人は多くはなく、交際していた恋人とも別れ、最高責任者であるエヴァ・ストラットを含めた地球救済プロジェクトのメンバーたちとはどこか心理的な壁を作っている(映画オリジナルキャラのカールを除く)。

ヘイルメアリー号(宇宙船。地球救済のための船に「やけっぱち」みたいな名前つけるな)にほとんど死の宣告がごとく強制的に乗船させられるグレース。昏睡状態から目覚めた彼は、記憶を取り戻しながらも、孤高にミッションへ挑んでいくが、目的地付近で本作最大のネタバレとされる異星人「ロッキー」と出会う。

『プロジェクト・ヘイル・メアリー』予告映像より

「自分の星を救う」という共通の任務を通じて相互理解を深める2人。故郷ではあらゆる他者との接触を拒んでいたグレースが、言語はおろか見た目も生育環境も何もかもが異なる存在と友情を育んでいく姿は、皮肉でありながら救いでもある。

他者の存在は時に大きな怖れを生み出すが、結局のところ社会で生きるためには他者の存在は避けられない。一度は死ぬために故郷を出るよう指示されたグレースは、異なる星で「君がいてほしい」と役割が与えられる。一見悲観的にも映りかねないシーンだが、そこにあるのは確かな希望だ。

本作(特に原作小説)は、コロナ禍でしか描かれ得なかったであろう空気感が随所に滲み出ていた。”透明な保護壁”で隔たれたグレースとロッキーや、グレースを救うために外気へ飛び出たロッキーが身体に損傷を受け、「療養」が必要になるところとか。

原作との差異|映画が孕む危うさ

原作既読勢(僕含む)がしばしば指摘しているのが、映画版と原作小説の違いについてだ。小説と映画ではフォーマットが違いすぎるため表現に差が出てくるのは避けられないが、グレースやロッキー、ストラットにいたるまで、どのキャラも微妙に性格がやや改変されている。

その中でも、特筆すべきはグレースだろう。原作でも映画版同様孤独な側面は描かれるが、基本的には聡明ながらも陽気で、見ていて爽快感のあるキャラ造形をしていた。一方で映画版のグレースは、孤独であることがよりフォーカスされ、ロッキーに対しての友情もどこか”依存”に近い。ライアン・ゴズリングの演技も相まって、物悲しい男性像としての側面が強調されている。

また、ロッキーの描写にも疑問を感じないこともない。原作における彼は、グレースに対する友好の意は持ちながらも、ややぶっきらぼうで皮肉屋まじりなエンジニア気質として描かれている。が、映画版ではとにかく「かわいく」て、ある種ペットとか癒し系の動物のように描写されているように思う(吹き替え版の声優が花江夏樹というのもそれを増幅させている気もする)。確かにロッキーはかわいくていい奴なのだけど、あまりに直截的というか。「外国人の店員がたどたどしく日本語を話している姿を『カワイイ』と捉えてしまうような危うさ」を感じてしまった。

原作も読んでくれ~!

原作では、記憶喪失の主人公が地球外にいることを映画より時間をかけてじわじわと特定していき、中盤でロッキーと出会い、終盤でお互いの星を救うため協力しあう、という流れがある。つまり、ストーリーが進むにつれ、ミステリー⇒SF⇒ブロマンスと、ジャンルが変貌していくのだ。それを軽快な筆致でテンポよく描くから、「SF小説」という大区分にカテゴライズされながらも、あまりに読みやすく、ページをめくる手が止まらなくなる。

なので、映画版を楽しめた人はぜひ原作小説も読んでみてほしい。普段小説をあまり読まない僕ですら、寝不足になるほど読みふけってしまうほど面白かったから。

他者と手助け

新型コロナウイルスの脅威は人々の生活様式はもちろん、人生観や潜在意識に至るまで大きな変容をもたらした。「他者と距離をとりなさい」と指示されていた数年間は、孤独感、鬱屈とした気持ち、諦観、冷笑、絶望を克明に照射し続けた。

だが、グレースにとってのロッキーのような、ロッキーにとってのグレースのような、見た目も育った環境も異なる他者は変わらず存在している。生命体として健やかに生きていくには、その他者が困っていたら助け、また自分も助けを借りて生きていくしかない。言うまでもないが、こんな現代だからこそ言っていくしかないような、我々が生きていく上で忘れてはならないもの。

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