先日、山崎貴監督による映画『ゴジラ-1.0』が公開されましたが、皆さん観ましたか?
国産の実写ゴジラは2016年公開のシン・ゴジラから実に7年ぶり。山崎貴といえば、賛否はあれど今や日本を代表するトップクリエイターである。予告を見る限り、初代ゴジラに通ずるシリアスで切実なゴジラ映画の匂いがして、なんやかんやで僕も楽しみにしていた。
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今作のゴジラ。デザインがかなり好み。デカい足、デカい背ビレ、最高! |
公開日にはSNSを遮断して急いで観に行き、先日も二回目を決め込んできたので、せっかくだし感想を書いてみたい。
良かったところ
間違いなく名作
だと思いました。敗戦後の焼け野原となった日本に無慈悲に現れる巨大生物:ゴジラが、復興中の建造物をぶち壊しまくる。戦争を生き残ってしまった特攻兵:敷島(神木隆之介)をはじめ、登場人物全員が死生観を剥き出しにしながら、なんとか希望を見出そうともがく姿はまさに「生きて、抗え。」のキャッチコピー通り。また、今作のゴジラはとにかく怖すぎる。目線をこちら側にしっかりフォーカスしながらぶち殺しにかかってきて、咆哮するたびに膝が揺れる。熱線のシーンは圧巻すぎて溜め息が出るほど。そして、それほど存在感があるのに、テーマを邪魔していないのも見事だった。
ハリウッドレベルのVFX
散々言われていることだけど、今作はVFXが本当に素晴らしい。シン・ゴジラでもおなじみ白組が手掛けているが、正直比較にならないほどクオリティが爆上がりしていて、お世辞抜きにハリウッド版のレジェゴジにも比肩するレベルだった。夜間戦闘の多いハリウッド作品と比べて、明るい昼間でのシーンが多かった上にクオリティも全く負けていない。海上での戦闘シーンなんかはマジで日本映画の最高到達点だと思った。機雷をくわえるゴジラのテクスチャ感なんてもはや本物と見紛うほどだ。
×怪獣映画 〇日本の大作映画
前作シン・ゴジラは怪獣映画としてはかなり異色で、エヴァの庵野総監督×久しぶりの国産ゴジラ×東日本大震災を経た日本の状況etc.が重なって異例の大ヒットとなり、日本の特撮史においてエポックメイキングな作品となったわけだけど、功罪どちらもあると思っていて。あれで「怪獣映画は着ぐるみがわちゃわちゃしてるやつ」と思ってる人が一掃された気がするんですよね。端的に言えばハードルが上がりまくった。が、今作は今作でそのハードルを楽々飛び越えていると思う。俳優陣は本格派だし人物描写も丁寧。CG・VFXは少なく見積もっても邦画最高峰レベル。構図もかなり凝っていて、冒頭の戦闘機のシーンや海神作戦はダンケルク、呉爾羅(ゴジラザウルスみたいなやつ)のくだりはジュラシック・パークを彷彿させる臨場感だった。つまり、シンゴジ同様、怪獣映画ではなく”日本の大作映画”として語られていくと思うんです。
気になったところ
とはいえ、気になった点も多々ある。
演技が豚骨ラーメン
こちらも散々言われているが、俳優陣の演技が濃すぎるシーンが多い。いわゆる邦画コピペのような絶叫や舞台演劇のようなこってり演技が無視できないレベルで目立っていた。豚骨ラーメンばかり食べてたら胃もたれしちゃうのよ、かけそばとかうどんも食べたいです……。
生きて、抗え…?
通底するテーマは「戦争に負けて生き残ってしまった俺たちが、これからは未来のために生きる」といった内容なのだけれど、生きるためにまた別の戦いを挑むという非対称性が歪に感じられてしまった。多数の犠牲者を出す戦争の恐ろしさを後の世代に啓蒙するのではなく、一人の犠牲者も出さないと宣言したとはいえ結局戦地に赴くしかないというやるせなさが、「誰かが貧乏くじを引かなきゃいけねえんだよ」の一言で片づけられる不完全燃焼感は否めない(ゴジラという巨大な討伐対象がそびえ立っているからこそ難しい点ではあるのだが……)。戦争で役に立てなかった男たち――男性としての尊厳を砕かれているという点で、一緒に暮らしていながら中々「夫婦」という関係性に進展できていない敷島も含む――が、新たな敵に対し、新たな戦いを挑み、対象を海底に封じ込めるというアプローチそのものが、どうも昭和的マッチョイズムからの脱却とは程遠く感じてしまうというか。
秋津艇長(佐々木蔵之介)の「みんないい顔してやがる……」も(文化祭じゃないんだから……)と心の中でつっこんでしまった。政府は頼りにならないから、民間人による知恵と有物の設備で編み出した作戦で挑むという流れは、コロナ禍や少子高齢化、円安の打撃を受けた現代の日本と少なからず重なる点があり、滾るものはあるんだけどなぁ。
後半の敷島周辺の描写も不足している。「俺の戦争が終わっていない」とゴジラへの特攻を目論むも、どこかで生への渇望を捨てられずにいる敷島が、典子(浜辺美波)の死を経てからは、元来のPTSDに加え”死に急ぎヤケクソ野郎感”が増してしまい、最後の最後に脱出装置を使用するまでの心の揺れ動きが描かれていないように感じられる。
また、パラシュートで脱出した敷島を映した直後、元整備兵:橘(青木崇高)が震電に脱出装置を追加したことを説明するのもスマートじゃない。出撃前の安全装置の説明の流れで、いっそ「この戦闘機には脱出装置を増設しておいた。俺はお前を一生許すことはできない。だが、だからこそ、絶対に生き残って償え」といったセリフを追加するのはどうだろう(それはそれでベタな気もするが……)。回想を待たずして、「脱出装置を使うんだろうな~」と嫌でもわかる流れにはなっているが、個人的にはアニゴジ最終作のハルオみたいにならんか不安だったしね。
説明過多
先述の豚骨演技と関連するけど、全体的に説明的なセリフが多い。例えば、職探しの帰りに、雨に打たれた敷島が「チクショウ!ずぶ濡れだ!!」と言う。すかさず僕は炭治郎を思い出す。これに関しては、視聴者をもう少し信じてほしい。
と、感想をつらつら書いていると、あることが思いつく。
山崎監督、サメ映画とめっちゃ相性いいんじゃね?
言わずと知れたサメ映画の金字塔 |
海上での機雷除去船による戦いは、犬かき(?)で迫ってくるゴジラの姿も相まってジョーズを彷彿させるし、ある種アトラクション的に楽しめるサメ映画と親和性がある気がした。なんなら轟沈した艦を見て「巨大なサメか!?」というセリフもある。白組のVFX技術が駆使されたシャークネードとか普通にエンタメ大作として観れそう。コテコテの説明セリフもパニック映画ならむしろ違和感ない気がするし。山崎監督、次回作はジェイソン・ステイサムにオファー頼みますよ。
映画館で観よう
冗談はさておき、過去のゴジラシリーズと比べても、映像面も扱うテーマも圧倒的なクオリティであることは間違いないです。長らく「初めてゴジラシリーズを観るならどの作品がいい?」という質問の最適解を考えていたけど、マジで今作なのかもしれない。映画館で観ないと意味がない作品でもあるので、この機会に観に行ってみてはいかがでしょうか。
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