【ネタバレ】映画『チルド』レビュー|”見えていない人たち”による現代群像コンビニホラー

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先日、ご縁がありとある映画を試写会で鑑賞した。『チルド』という作品である。

監督は本作が初長編作品となった岩崎裕介氏。主演は染谷将太。主題歌はPAS TASTAとermhoi。”今”すぎる。

そして本作は、第76回ベルリン国際映画祭にて国際映画批評家連盟賞を受賞したという快挙も成し遂げている。ちなみに過去に受賞した日本映画だと、相米慎二監督の『あ、春』や、行定勲監督の『リバーズ・エッジ』など。相当なことですよ、これは。

劇場公開前に一足先に観たのでレビューを書きました。完全ネタバレにつきご注意ください。

あらすじ

東京の片隅にあるコンビニ、エニーマート倉冨町7丁目店の副店長・堺は、学生時代に働き始めて以来、気づけば20代のほとんどをこの店で過ごしてきた。レジ打ちに品出し、廃棄処理。そしてスマホゲームにマッチングアプリ。毎日はただ同じことを繰り返して過ぎていく。オーナーはコンビニというシステムの中でわずかな乱れも許さず店を支配しているが、そこへ新人アルバイトの小河が現れたことで、店の均衡は静かに崩れ始めていく。

映画.comより

”見えていない人たち”

終始、嫌〜な空気が漂う作品だった。

嫌だと片付けるのも違うか。いわゆる露悪ノリでもなければジメり気のあるジャパニーズホラーでもない、ありそうでなさそうな嫌さが通底する作品だから。

まず感じたのが、”見えていない人たちの物語”だと思った。

副店長という立場でありながらどこか自分のキャリアビジョンが見えてない堺(染谷将太)、美容師という夢を叶えたいと語りつつどう叶えていくかの現実が見えてない小河(唐田えりか)、自分の欲望に従順で接客中も客のことなど一切見えてない室田(高比良くるま)、コンビニという閉鎖空間で自分の秩序を浸透させることにしか関心がなく、本部の社員や従業員すらまともに見えてないオーナー。

「見えないものが見えるという恐怖」を描くのがホラーの定石のはずだが、「見えているものを見ようとしない」ことを描くことで逆説的にホラーたらしめてる構造が面白い。

コント的理不尽さ

無気力なコンビニ副店長が、気だる~く今の日本を生活していくオープニング……かと思いきや、終始訪れる理不尽で気色の悪い、でもギリありそうな出来事の数々。趣味の悪いショートコントをエンドレスで見せられている気分だった。

日本のコンビニという、すべてが揃いながらもどこか閉鎖的でヴォイドな空間を舞台に繰り広げられるあらゆるインシデント。「店内を1時間徘徊してやっと1品買う奴」「万引きして逆ギレする奴」「後輩に自分の演技を無理やり聞かせる声優志望の奴」「万引き犯見逃すコンビニオーナーの奴」……。

あり得ないほど滑稽な行動をシリアスに真顔で積み重ねていくことで到達するユーモア。書けば書くほどジャルジャルのコントすぎる

↑ほぼこんなシーンもあったしな。

中盤で加入する小河と堺が打ち解けていく様子は、ファミレスという舞台もあいまって『花束みたいな恋をした』の麦くんと絹ちゃんを彷彿させるが、席の後ろでは注文ミスに逆ギレしたシェフがクリエイターまがいの客に暴行を加え惨殺している。やっぱり「見えてない」のだ。

監督のアフタートークによればこのシーンはかなり直截的な現実社会への批判的なまなざしがあったわけだけれども、映像としてはやはりコントみがあり面白い。「クリエイター」を嫌いすぎだろ。

最悪のデウス・エクス・マキナ

終盤では、ある登場人物がすべてをめちゃくちゃにしていく展開を迎える。さながら『パラサイト 半地下の家族』のラストのようであり、最悪なデウス・エクス・マキナともいえる。

岩崎監督の父親が実際にコンビニを経営されているらしく、いつしか劇中のオーナーのように虚無をまとうようになったらしい。

染谷将太インタビュー。「いろんな価値観に触れられる俳優という仕事がすごく好き」 | 著名人 | LEON レオン オフィシャルWebサイト
コンビニという空間を日本社会の縮図として捉え“社会批評的ホラー”とも称される映画『チルド』で日々を無感動に過ごす店員の堺を演じた染谷将太さん。“終わりのない、ぬるま湯のような地獄”を描いた本作から染谷さんは何を感じたのでしょう?

つまり、本作はそうした点で半ば自伝的な性質もあるわけで、やはり単純な露悪ホラーと査定してしまうのは早計なのだろう。そして、こうした自伝的な作品が国際賞を獲得していることにも、ある種の希望のようなものも感じざるを得ない。

逆プロジェクト・ヘイル・メアリー

再び別のコンビニにて死んだ顔で働き始める堺の表情を映し、物語は幕を閉じる。「上司から与えられたミッションのもと働くこととなり、通じ合える相方と出会えて自身の人生観も見通せてきたと思った矢先、上司がその相方をはじめすべてを殺害&破壊して自害し、はまた灰色の日々に戻っていく……」という流れは、いってしまえば「逆プロジェクト・ヘイル・メアリー」だ。ここはロッキーもエヴァ・ストラットもビートルズもいない、何の変哲もないコンビニエンスストア。

劇場公開は2026年7月17日。またのご利用をお待ちしております。

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