映画『バックルームズ』を観た。

ミームから映画へ
本作は『The backrooms』を元ネタとする映画。『The backrooms』とは、2019年に4chan(海外のインターネット掲示板。2ちゃんねるみたいなつ)の「なんか怖い画像あげてけ」的なるスレッドに突如アップロードされた、とある1枚の画像のこと。この画像のなんともいえない不気味さによりみるみるうちにミーム化し、ゲームになり、映画になった。

監督は、本作が初の長編作品となるケイン・パーソンズ。弱冠20歳そこらでこんな映画撮ってるの、凄すぎる。
あらすじ
家具店の店主クラークは、店内に“あるはずのない隙間”を発見する。その先には壁の裏側へと抜け落ちるように続く、全面が黄色い壁紙の異様な空間が広がっていた。奇妙なバランスで積み上げられた無数の家具に、果てしなく続く迷路のような黄色い部屋。どこからともなく断片的なアナウンスが聞こえてくるが、呼びかけても応答はない。クラークはセラピストのメアリーにこの異様な空間について説明したものの信じてもらえず、その存在を証明するべく、記録用のビデオカメラを手に再び足を踏み入れるが……。
あらすじ
レビュー
面白かった!
不気味ながらどこか不穏な1枚の写真を1本の映画に落とし込む手腕に痺れたし、それを20歳そこそこの若者が創り上げたことに興奮を禁じ得ない。
初見でまず惹きこまれたのが、サウンドデザインに優れているという点だ。無限回廊に響く足音、遠くで聞こえる謎の咆哮のような怪音、館内に流れるダークアンビエント……劇伴が切り替わるタイミングでいちいちゾクゾクしてしまった。
捕食者
バックルームズは人々の記憶に根強く紐づくものという特性上、「わかりやすい”捕食者”がいると萎える」と言う意見も散見されたが、元ネタ画像が貼られたときのキャプションにもその存在は示唆されていた。
God save you if you hear something wandering around nearby, because it sure as hell has heard you
— Anonymous. 4chan (4plebs). 2019/5/13.
映画『プロジェクト・ヘイル・メアリー』の予告でも早々にロッキーの存在が明かされていたように、それなしではエンタメとして成立しえなかったのだろうと推察する。1枚の画像を2時間の映画に変換するにあたり、映画としての強度を保つにはストーリーや明確なヴィラン的な怪異の存在など、何かしらの大きな要素が求められるのは必然だろう。ひとりの男が無限の不穏な空間を2時間歩き続ける映像はそれはそれで見てみたいが、それでマスを集客できるかは別の話である。
加えて、本作の捕食者は自身の過去を投影したモンスターということで、シンプルなパニックモノとは一線を画しているのも良かった。
円環構造と無限世界
本作を語る上で外せないのが、映画『8番出口』である。

8番出口自体がバックルームズをルーツにしているという説もあり、比較の俎上に挙げられるのは当然といえるが、両者には明確な違いがある。
バックルームズは無限に広がる空間の中を手探りで進んでいくのに対し、8番出口は円環構造の駅構内を彷徨うという大きな違いがある。
それはつまり、空間や日常の捉え方が異なると解釈することもできる。一般的に、アメリカは「自由と開拓の象徴」としているが、日本はループするものだとも言えるのかもしれない。まさに「山手線」的である。
アメリカの内省
そんな無限に広がる未知の空間に、主人公は”意思を持って”足を踏み入れる。それはうだつの上がらない日常に対するカウンターパンチのつもりだったのかもしれないし、単純に「面白そうだったから」かもしれない。
いずれにせよ、ノスタルジーへの憧憬とまだ見ぬ未来への渇望を捨てきれていないところに、アメリカという歴史の浅い国家における、潜在的な精神性みたいなものを感じてしまった。現政権や不安定な社会情勢への危機感を感じつつ、過去の蓄積への内省も共存している。クラークが迷う姿を通して本当に描きたかったのは、アメリカという国家自体がいま混迷を極めているということそのものなのかもしれない。



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